台車(TR29・TR26)資料


もちろん趣味の問題なのですが、鉄道台車は機能を追求し無駄を排した実用一点張りの装置であるはずなのに、台車ごとに無骨・重厚・精緻・スマート・軽快などの表情をもち、尚且つ見つめていても飽きのこない美しさを持っています。
なかでもTR29は「繊細さ」をも備えた、とびっきり美しい台車と言えるでしょう。

純粋に TR29 が好きなので、このページを作りました。
内容については正確さを心掛けておりますが、「好き」の範囲を超える専門知識は持っておりませんので、プロの方がご覧になると正確でない箇所や表現があるかもしれませんがご容赦ください。

本ページにおいて、とくに注釈のないTR29の写真は2008(平成20)年12月23日に、鉾田駅保存会様所有のキハ601を撮影したものです。
鉾田駅保存会様所有のキハ601 の写真につきましてはスナップの範囲を超えた撮影と判断し、事前に鉾田駅保存会様よりご了解を得たうえで公開しております。

本ページの内容ならびに写真については作者 red50kei にすべての責があり、写真撮影を快諾くださった鉾田駅保存会様には一切関係のないことを念のために申し添えます。

2009/06/09 red50kei


 TR29台車の前身は1932(昭和7)年から製造されたキハ36900(車輌称号改正後のキハ41000)で採用されたTR26がベースとなっています。
 TR26の設計にあたっては当時のエンジン出力が弱く軽量を念頭にして平鋼をベースに設計、また軸受は摩擦抵抗も考慮し「ころ軸受」を採用しました。

 左写真の1957(昭和32)年、東急車輛製造の鹿島鉄道キハ431(元 加越能鉄道のキハ125)が履いているのがTR26です(東急車輛での台車名称 TS-102A)


 1935(昭和10)年、キハ36900を大型化したキハ42000(車輌称号改正後のキハ07)新製に際し、TR26をベースにして

 @軸距を200o伸ばし2,000oとする
 A「心皿」下方に位置する「半月型重ね板ばね」の左右終端部を直接「ゆれまくらつり」で「台車枠」と連結する方式を改め、左右各々に「半月型を向かい合わせた重ね板ばね」を「ゆれまくら」に配置し、「下ゆれまくら」と「台車枠」を「ゆれまくらつり」を介して連結する方式とする

 主に2箇所の改良を施し、TR29としています。
 大型化対応とはいっても骨格は従来どおり平鋼であるために、他の形式の台車と比べて隙間が多く、繊細な印象を受けます。


(注)菱枠台車(アーチバー式台車)のTR26・TR29は国鉄での形式称号であり、車輌製造各社毎に微細な差異と固有の形式型番が存在しています。各社の台車については「TR26タイプ」・「TR29タイプ」と読み替えてご覧ください。
 

 
⇒ Aについて、「なに言ってんのか、サッパリ分かんねぇ〜」という方に以下で補足。

 

TR29⇒左右各々に「半月型を向かい合わせた重ね板ばね」⇒ を「ゆれまくら」⇒ に配置し、「下ゆれまくら」⇒ と「台車枠」⇒ を「ゆれまくらつり」⇒ を介して連結する方式とする


 

「上ゆれまくら」と「下ゆれまくら」の間に「板ばね」を置くことにより、上下方向の衝撃を吸収する。


 

さらに、「ゆれまくらつり」を「“ハ”の字型」に“設置し、 ピンを用いて” 接合することにより、横(左右)方向からの衝撃も吸収する仕組みとなっている。


 

車体重量は「心皿」と「側受」を通して「上ゆれまくら」・「板ばね(まくらばね)」・「下ゆれまくら」に載ります。車体に瞬間的な縦方向の衝撃が加われば「板ばね(まくらばね)」が直接的な衝撃を吸収した後に「下ゆれまくら」に伝わります。ゆれまくら全体は「台車枠」から「ゆれまくらつり」によって吊られて(支えられて)おり、車体重量は「台車枠」から「コイルばね(軸ばね)」・「軸受」・「車輪」、「線路」へと伝わってゆきます。
 逆に線路からの縦方向の衝撃は「コイルばね(軸ばね)」で吸収できなかった分が、「台車枠」から「ゆれまくらつり」を通して「板ばね」へと伝わりますが、車体の重量との兼ね合いから車体への衝撃は相当量減じられるはずです。
 「軸ばね」と「まくらばね」は車体を支えつつ、線路からの衝撃を緩衝する働きをしており、各ばねの“硬さ”と各ばねにかかる“重量”の比率により快適な“乗り心地”ができあがります。


 

TR29⇒左右各々に「半月型を向かい合わせた重ね板ばね」を「ゆれまくら」に配置し、「下ゆれまくら」と「台車枠」を「ゆれまくらつり」を介して連結する方式。


 片やTR29のベースとなったTR26は、「心皿」下方に位置する「半月型重ね板ばね」の左右終端部を直接「ゆれまくらつり」で「台車枠」と連結する方式。(「下ゆれまくら」がありません)


 ひとつの台車で、軸ばね はTR29もTR26も各々4個

 まくらばねTR26は「半月型の重ね板ばね」1個
 TR29は「半月型を向かい合わせた重ね板ばね」2個

 軸ばね と まくらばね の「2段ばね機構」であるところは同じですが、「まくらばね」の形状および性能と「下ゆれまくら」の有無に違いがあります。




      

TR26実車

 

 

2007/04撮影 廃止直後の鹿島鉄道 鉾田駅 キハ431
1957(昭和32)年、東急車輛製造(元 加越能鉄道のキハ125) 東急車輛での台車名称 TS-102A


 

(上)元 東武鉄道 熊谷線 妻沼町 キハ2002 1954(昭和29)年、東急車輛製造 東急車輛での台車名称 TS-102
(下)元 蒲原鉄道 村松町 クハ10 1930もしくは35(昭和5もしくは10)年、川崎車輌製造(元 国鉄キハ41120)


TR29実車

  

筑波鉄道 岩瀬駅 キハ761 1957(昭和32)年、新潟鐵工所製造(元 雄別鉄道のキハ42900Y1)
新潟鐵工所での台車名称 NH-38


 

鹿児島交通 加世田車庫 TR29の予備台車 (ゆれまくら ならびに 重ね板ばね は別の場所で保管していたものと思われる)


 

 

以下、「キハ601」が女性ならば“張り倒されそうな”写真を撮っていますが、超広角レンズをつけて手持ち・自動焦点・内蔵ストロボでの撮影です。勿論、車輌には手を触れておりません。(念のため)  一部、鉾田駅保存会様が所有する前の鹿島鉄道時代の写真(2007/04/30撮影)も含まれております。
<下2枚 2007/04撮影>


 

車輌、鉾田方に位置する駆動台車  
左の写真が左サイド(左方向が鉾田方)、右の写真が右サイド(右方向が鉾田方) 
<右写真 2007/04撮影>


 

鉾田方の駆動台車(左サイド)
排障器は左右の台車枠に直接取り付ける方式ではなく、アングルを渡して取り付けています


 

同じく鉾田方の駆動台車(左サイド)
骨格に当たる「菱枠柱」と「横梁」、「台車梁枠」と「隅板」はリベット打ちで一体化しています


 

下部9枚プラス上部9枚、小計18枚の鋼が重って2組、つまり合計36枚の鋼をもって1つの板ばね(まくらばね)となり、これが1つの台車に左右2対あるので鋼の数は総計で9×2×2×2=72枚となります
鉾田方の床下


 

排障器の最下部はゴムが張られているようです
また、線路面との隙間調整が出来るように工夫されています


 

車体と台車をつなぐ「心皿」と「側受」
台車枠(横梁)と「下ゆれまくら」を釣る「ゆれまくらつり」

 

 

角度を変えて、「心皿」、「台車枠」、「下ゆれまくら」、「ゆれまくらつり」
さらに角度を変えて、「下ゆれまくら」に「板ばね」が載るとともに、板ばねの形状に添うように角度のついた「上ゆれまくら」により挟まれている。「上ゆれまくら」の横が「台車枠」(横梁)

 

 

エンジンにより作られた回転力は変速機を通りプロペラ軸に伝えられるが、この回転方向は常に一方向である、故に車輌が前進・後退を行うためには回転方向を変えるための逆転機が必要となる、また逆転機は線路と平行に延びるプロペラ軸の回転力を線路と垂直に位置する車輪および車軸に向きを変えて伝えるための装置でもある
<左写真 2007/04撮影>


  

鹿児島交通の100型・300型、そしてこの鹿島鉄道のキハ601ともに、逆転機を通して動力は車軸および車輪に伝えられるが1台車・1軸に対してのみである。(1台機関・1軸駆動)
逆転機のウラ側

 

 

プロペラ軸(推進軸)と自在継手
自在継手の外周を囲んでいる鋼板が「振れ止め」だろうか?
「振れ止め」⇒走行中にプロペラシャフトや自在継手が破損し道床に接触して大事に至らぬように取り付けた“ささえ”のための部品
(RM LIBRARY 35 「キハ07ものがたり(上)」より)


 

逆転機側から変速機方向
変速機側から逆転機方向


 

変速機
変速機とエンジン
<右写真 2007/04撮影>


 

車輌、石岡方に位置する付随台車  
左の写真が左サイド(左方向が石岡方)、右の写真が右サイド(右方向が石岡方)
<両写真とも2007/04撮影>


 

石岡方の床下
両輪についているのは塗油器?
<右写真 2007/04撮影>


 

現役時代は日本最古の気動車だったキハ601、最古ではなくなったが貴重な気動車であることに変わりはない
旧鉾田駅の終端部で大切に保管されている
キハ601撮影日 2007/04/30 および 2008/12/23



鉾田駅保存会様が所有する前の鹿島鉄道時代の写真(2007/04/30撮影)ならびにキハ431などの写真は作者 red50kei の判断により公開しております。


まくらばねの構造に特徴のある「野上式台車」
(トワイライトゾーンMANUAL11より)

このページの参考資料
    RM LIBRARY 35 キハ07ものがたり(上)
    鉄道ピクトリアル NO.132 515


  http://homepage3.nifty.com/hokota-station/





2009/06/09 仮公開